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名古屋高等裁判所 昭和62年(行コ)2号 判決 1987年8月19日

控訴人 第一開発株式会社

被控訴人 名古屋国税局長

代理人 加藤光明 尾崎慎 ほか二名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人が、控訴人の昭和六一年一月三〇日付不動産差押処分に対する異議申立について、同年四月三〇日付でした棄却決定を取り消す。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当事者間に争いのない事実については、原判決理由説示一のとおりであり、国税通則法八四条四項・五項の意義並びに解釈に対する当裁判所の見解は同理由説示二のうち原判決一三枚目表一行目冒頭以下同一〇行目「いうべきである。」とある部分までのとおりであるから、それぞれこれを引用する。

二  <証拠略>によれば(1)被控訴人が控訴人に対し本件差押処分をした当時、控訴人の滞納税額は少なくとも四八一一万五一〇〇円であつたことが認められるのに対し、前記当事者間に争いのない事実(原判示)及び弁論の全趣旨によれば(2)前記差押の通知が本件差押不動産上の根抵当権者である訴外東海信用組合(以下「訴外組合」という。)に送達された昭和六一年一月一四日現在の同組合の債務者訴外有限会社明岐産業に対する債権額は元本債権額一億円、遅延損害金一九万九二三二円の合計一億一九万九二三二円(以下「優先債権額」という。)であつたこと、(3)被控訴人は、本件差押不動産の評価額を、右土地を含む隣接地一帯の開発計画に際して、その開発計画者が昭和五九年三月一〇日不動産鑑定士の鑑定額を前提にして一平方メートル当たり四五〇〇円として岐阜県知事に買い取りを申出、同知事もこれを相当と認めたこと及び訴外組合が前記根抵当権設定契約を締結するに際しては、本件差押不動産を一平方メートル当たり四五〇〇円と評価していたことが、調査の結果明らかになつたため、右金額を基準にしてこれに時点修正を施して一平方メートル当たり四七〇〇円と評価したうえ、公売による特殊性等の減価要素も加味して総額一億七五六万円としたことが認められる。

以上の事実によれば、被控訴人の本件差押不動産の評価額と、優先債権額とは近似していて、本件差押不動産の強制換価により、右優先債権額を充たし得るか否かは必らずしも明白ではなかつたものというべきであり、国税通則法八四条四項・五項の趣旨に鑑みれば、被控訴人は控訴人に対し本件異議申立を棄却するについて、本件差押処分の相当性および適法性を明らかにするために、少なくとも本件差押不動産に対する自らの評価額を付記すべきであつたと認めるのが相当である。

被控訴人は、本件異議申立は青色申告の更正処分のごとく課税標準等の数額にかかわるものと本来性質を異にするものであり、国税徴収法四八条二項の趣旨からすれば、本件異議申立に対しては「無益である」か否かの判断を理由として付記すれば足ると主張する。しかしながら、理由付記の程度は不服の事由との関連において具体的事案に即して決すべきことはいうまでもないところ、本件においては滞納税額、優先債権額及び差押不動産の評価額の対比が「無益」か否かを決する要素であるのみならず、さきに認定したように優先債権額と差押不動産の評価額が近似していること、及び、不動産を金融機関の担保に提供する際には、通常担保提供者は右金融機関の評価方法ならびに評価額を容易には窺い知ることが出来ないことなどを総合勘案すると、本件異議申立書の理由が単に「本件差押は国税徴収法四八条に違反する無益な差押である。」としか記述していなかつた点を参酌しても、なお原処分の理由付記は具体性が欠けていると認めざるをえない。被控訴人の主張は採用することが出来ない。

三  以上のとおりであるから本件異議申立棄却決定は付記すべき理由不備の違法があるものというべく、取り消しを免れず、よつて右と異なる原判決を取り消すこととし、行訴法七条・民訴法九六条・八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀧田薫 笹本淳子 豊永多門)

【参考】第一審(名古屋地裁昭和六一年(行ウ)第一二号 昭和六二年一月三〇日判決)

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告が、原告の昭和六一年一月三〇日付不動産差押処分に対する異議申立てについて、同年四月三〇日付でした棄却決定を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求原因

1 被告は、昭和六一年一月九日付で、原告所有の別紙物件目録記載の各土地(以下、「本件差押不動産」という。)につき、国税滞納処分による差押(以下、「本件差押」という。)をした。

右差押の原因とされた国税は、訴外五共紡績株式会社の昭和五九年度法人税本税四五八二万四一〇〇円、過少申告加算税二二九万一〇〇〇円及び延滞税について、昭和六一年一月九日付通知書をもつて原告に告知された第二次納税義務である。

2 本件差押につき、原告は被告に対し、昭和六一年一月三〇日付で異議申立てをし、その理由として左記のとおり主張した。

(一) 本件差押に係る土地の全部を共同担保の目的として、昭和六〇年六月五日付をもつて、権利者東海信用組合のために極度額一億一〇〇〇万円の根抵当権が設定されている。

(二) 上記根抵当権設定契約における債務者有限会社明岐産業は、極度額に達する債務を負担している。

(三) 本件差押物件の強制換価による見込価額は、上記債権額を充たし得ない。

(四) 本件差押物件が強制換価手続によつて換価された場合の配当において、本件差押債権である国税は、上記抵当権者の債権に後れる。

(五) したがつて、本件差押は国税徴収法四八条二項に反する違法な処分である。

3 右異議申立てにつき、被告は、昭和六一年四月三〇日付で「異議申立てを棄却する。」旨の決定(以下、「本件異議決定」という。)をなし、同年五月一日、原告にその旨通知したが、その理由としては、次の記載があるだけである。

「しかしながら、当国税局の調査したところによれば、本件不動産の価額は国税に優先する根抵当権の被担保債権額を超えており、国税への配当が見込まれることから無益な差押処分とはいえない。

また、差押手続についても違法な点はなく適法であり、申立人の主張には理由がないので、本件異議申立てを棄却するものである。」

4 右の理由附記は、被告がどのような調査によつて得たどのような資料に基づいて右のような判断をするに至つたかを異議申立人である原告において推測することすら不可能な程、抽象的、独断的なものである。このような理由の記載では、「異議申立人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を認識し得る程度に記載すれば足りる」という程度にさえ達しておらず、不備、違法なものである。

5 よつて、本件異議決定の取消しを求める。

二 請求原因に対する被告の認否

請求原因第1ないし第3項の各事実は認める。同第4、5項の主張は争う。

三 被告の主張

〔本件異議決定に至る経緯〕

1 原告に対する第二次納税義務の告知

被告は、原告に対し、昭和六一年一月九日付け納税通知書(納期限昭和六一年二月一〇日)をもつて、訴外五共紡績株式会社の第二次納税義務者として告知処分をした。

2 第二次納税義務の繰上請求と原告所有不動産の差押

被告は、第二次納税義務者である原告が、昭和六〇年九月三〇日株主総会の決議により解散した(同年一〇月一四日解散登記(<証拠略>)ため、原告に対し、国税通則法三八条一項により納期限を昭和六一年一月九日午前一二時とする繰上請求を行つたが、原告が右納期限までに滞納に係る国税の第二次納税義務を履行しなかつたので、右同日、本件差押をなし、その旨原告に通知するとともに本件差押に優先する根抵当権者である訴外東海信用組合に対してもその旨を通知した。

3 本件差押不動産の評価

被告は、左記の事由を斟酌し、本件差押不動産の評価額を後述の時点修正をした上、一平方メートル当たり四七〇〇円として評価した。

(一) 本件差押不動産を含む隣接地一帯につき開発計画があつたこと

(二) その開発計画者である訴外株式会社間組及び中鉄建設株式会社は、昭和五九年三月一〇日、岐阜県知事に対し提出した「土地売買等届出前協議申請書」において、不動産鑑定士板津友次郎による鑑定評価額一平方メートル当たり四四〇〇円を参考として一平方メートル当たり四五〇〇円を買取価額とし、これを受けた岐阜県知事もこれを相当額と認めていること

(三) 訴外東海信用組合(本件差押不動産の差押に優先する根抵当権者)は、本件差押不動産の評価額を一平方メートル当たり四五〇〇円と評価し、根抵当権設定契約に応じたこと(以下、これを「本件根抵当権」という。)

4 本件差押不動産の評価総額

被告は、本件差押不動産の評価総額を、前記板津不動産鑑定士による評価時点から財団法人日本不動産研究所が作成し、これを執務用として名古屋国税局が編集した「評価関係資料集」中の評価指数をもつて時点修正した上、公売の特殊性による減価要素を一〇パーセントとして控除し、次の算式により総額一億〇七五六万円と算出したものである。

差押不動産の総面積 平方メートル当たり単価 公売の特殊性による減価要素 差押不動産の評価総額

(25,427m2×4,700)×(1-0.1)≒107,560,000円

5 差押通知における根抵当権の被担保債権額

本件差押不動産上の根抵当権者訴外東海信用組合に対する差押通知書の送達時点である昭和六一年一月一四日現在において、本件差押不動産等によつて担保される債権額は、根抵当権設定契約に基づく根抵当権者訴外東海信用組合、債務者訴外明岐産業間の手形貸付契約による

(一) 昭和六〇年九月三〇日付手形貸付額 五〇五〇万円

(手形期日 昭和六〇年一二月二九日右期日までの利息先払い済)

(二) 同年一一月八日付手形貸付額     六五〇万円

(手形期日 昭和六一年二月六日右期日までの利息先払い済)

(三) 同年一二月三〇日付手形貸付額   四三〇〇万円

(手形期日 昭和六一年三月六日右期日までの利息先払い済)

の元本債権総額一億円及び右(一)に対する遅延利息一九万九二三二円であつた。

なお、原告は、異議申立ての理由中で本件根抵当権の被担保債権として昭和六一年二月二八日の手形貸付契約による手形貸付額一〇〇〇万円をも主張しているようであるが、同債権は、昭和六一年一月一四日の訴外東海信用組合に対する前記差押通知によつて、根抵当権により担保される元本債権が同年一月二八日の経過をもつて確定した(民法三九八条ノ二〇、一項四号)後に生じたものであるので、当該根抵当権により担保されない債権である。

6 本件差押不動産における被差押債権額

被告は、前記4に述べたとおり、本件差押不動産の評価額が一億〇七五六万円であり、前記5における本件差押不動産によつて担保される元本債権総額が一億円であつたので、十分剰余が見込めるとして、本件差押をしたものである。

7 異議申立て及び異議決定ならびにその理由

ところが、原告は、昭和六一年一月三〇日、被告に対し、本件差押が、国税徴収法四八条二項におけるいわゆる無益な差押であるとして請求原因第2項に記載の理由で異議申立てをした。これに対し、被告は、昭和六一年四月三〇日、請求原因第3項に記載の理由を附記して本件異議決定をなし、同年五月一日原告にその旨通知した。

〔本件異議決定における附記理由の適法性〕

1 国税通則法八四条四項は、異議申立てに対する異議決定書に決定の理由を附記すべきこととし、同条五項は当該異議申立てに係る処分の全部又は一部を維持する場合における異議決定の理由においては、その維持される処分を正当とする理由を明らかにしなければならないと規定しているが、異議決定にいかなる程度の理由附記をなすべきかについては明確に規定していない。

一般に、法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、処分理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解され、また、当該処分に附記すべき理由の程度については処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨に照らして決定すべきものと解されている。

したがつて、国税関係処分としての異議決定(以下、単に「異議決定」という。)に附記すべき理由も異議決定の性質及び国税通則法八四条における趣旨、目的に照らしその程度が判断されねばならないというべきである。

ところで、理由附記でしばしば問題となるところの青色申告に係る更正処分のごとく、その更正が、当該納税者の課税標準等の数額にかかわるものであり、税務官庁が当該納税者において誠実に記帳したその信頼性ある帳簿書類に即して調査した結果、金額と科目の点に誤りを発見した場合になされるようなものである場合には、当該納税者の右帳簿書類の記載以上に信憑力ある資料を摘示して、更正の具体的根拠を通知しなければ、当該納税者としては、更正金額が何故に生じてきたかを知ることはできないのである。したがつて、更正の理由附記としては、いかなる勘定科目にいくばくの脱漏があり、その金額はいかなる根拠に基づくものであるかなど不服の事由に対応してその結論に到達した過程が、その記載自体から納税者が知りうるほどに明示されねばならぬことになるのである。

しかしながら、本件で異議決定の附記理由の対象となるのは、本件差押が、国税徴収法四八条二項に反するか否か、すなわち、無益な差押に該当するか否かにあるのであつて、前記更正処分の場合とは異なり、差押対象物件、右物件に設定された根抵当権等の被担保債権額とも差押時に客観的に確定しており、しかも、その対象物件の時価及び被担保債権額とも、被差押者原告において十分認識し、又は容易に認識しうるものであることからすると、前記更正処分の場合の理由附記に比しておのずとその附記理由も簡略なものでこと足りるといえるのである。

2(一) ところで、本件に関する原告の異議申立ての理由は、要するに、本件差押に優先する根抵当権があり、当該根抵当権によつて担保される被担保債権が極度額に達しているので、本件差押は無益な差押であるとするものであり、これに対し、被告は、「当国税局の調査したところによれば、本件不動産の価額は、国税に優先する根抵当権の被担保債権額を超えており、国税への配当が見込まれるところから無益な差押処分とはいえない。

また、差押手続についても違法な点はなく適法であり、申立人の主張には理由がない」とする理由を附記して異議決定をしたのである。

原告の異議申立てが更正決定のごとく、課税標準の多寡について異議を申し立てたのではなく、本件差押が無益であるとして異議を申し立てたのであるから、無益であるか否かの判断を異議決定における理由として附記すれば足りるものであつて、本件異議決定の理由においては、申立ての事由に対応し、無益な差押といえないとの理由を附記しているのであり、何ら法の趣旨にもとるとはいえないのである。

(二) なお、被告の右異議決定の理由中冒頭において「当国税局の調査によれば……」としてその調査内容を具体的に記載していない点はあるが、このような表現にとどめた附記理由も是認されるべきである。

(三) 原告は、前記のとおり、本件差押不動産を平方メートル単価四五〇〇円で担保に供しており、差押時における根抵当権の被担保債権額が右差押不動産の評価額を上回ることはないことを知悉していたものであることから、本件異議決定における附記理由をもつてすれば、棄却の決定理由を十分了知しえたのであり、何ら右附記理由が不備であるとはいえないのである。

四 被告の主張に対する原告の認否

1 被告主張の「本件異議決定に至る経緯」の第1ないし第3項の各事実は認める。第4項は争う。第5ないし第7項の各事実は認める。

2 被告主張の「本件異議決定における附記理由の適法性」の主張は争う。

五 原告の反論

1 異議決定に理由を附記すべきこととした立法の趣旨が、被告主張のとおりであるとすれば、その趣旨は、異議決定書の記載自体において充足されていなければならない。異議決定書の理由附記は概括的、抽象的であつても、当該異議の対象となつた行政処分につき実情を知悉している異議申立人が、概括的、抽象的な理由の記載から決定理由を推知することができれば足りるとする被告の主張は、理由附記の立法趣旨に反する。

2 異議申立てに対する棄却決定の理由附記の程度としては、原処分を正当として維持したその判断の根拠を申立人に理解できる程度に具体的に記載すべきものであり、これを本件に即していえば、本件差押執行当時において、被告が認識していた本件差押不動産の見積価格、被告の租税債権に優先する債権(本件根抵当権によつて担保されている債権)の現在額を具体的に記載すべきであつたのである。本件異議決定の附記理由のように、「無益な差押である。」という不服の事由に対し、「国税局の調査したところによれば……無益な差押ではない。」というだけでは、理由を附記したとはいえない。

第三証拠関係 <略>

理由

一 請求の原因第1ないし第3項の各事実及び被告主張の「本件異議決定に至る経緯」の第1ないし第3項の各事実、同第5ないし第7項の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二 原告は、本件異議決定の理由附記は不備、違法なものである旨主張するので、以下、この点について検討する。

国税通則法八四条四項は異議申立てに対する異議決定書に決定の理由を附記すべきこととし、同条五項は当該異議申立てに係る処分の全部又は一部を維持する場合における異議決定の理由においては、その維持される処分を正当とする理由を明らかにしなければならないと定めているが、その趣旨は、異議審理庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、異議申立人に争訟の便宜を与えることにあると解されるから、その理由の記載は、異議申立て人の不服の事由に対応して、その結論に到達した過程を明らかにしなければならないものというべきである。もつとも、具体的にどの程度の記載があれば理由附記として十分なものといい得るかは、当該具体的事案により、また、異議申立人が異議審理庁に対して提出した異議申立書に記載した異議申立ての理由の内容、記載の程度、これを裏付ける資料の有無等により、それぞれ異なるものといわざるを得ない。

これを本件についてみると、前記確定事実及び<証拠略>によれば、本件事案は、被告が、原告に対し、訴外五共紡績株式会社の第二次納税義務者として告知処分をしたが、原告が、その納期限までに滞納に係る国税の第二次納税義務を履行しなかつたので、被告が原告所有の本件差押不動産に対し、本件差押をなしたところ、原告は、被告に対し、本件差押が国税徴収法四八条二項により禁止されている、いわゆる無益な差押であるとして、請求原因第2項記載のとおりの異議申立ての理由を記載し、本件差押の取消しを求める異議申立書を提出して、本件差押につき異議申立てをなしたというものであり、その際、原告は異議申立書の添付書類として、委任状の他には、本件差押不動産のうちの一筆についての土地登記簿謄本一通のみを提出したにすぎないこと、これに対し、被告は、請求原因第3項記載のとおりの理由を附記して、右異議申立てを棄却する旨の本件異議決定を行つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実関係を前提として検討するに、本件は、申告に係る所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものであれば、その帳簿の記載を無視して更正されることがない旨の手続的な権利保障のある、いわゆる青色申告者に対する更正処分についての理由附記の場合とは異なること、本件で異議決定の附記理由の対象となるのは、本件差押が国税徴収法四八条二項に反するか否かであり、具体的には、本件差押不動産の価額が、本件差押に係る滞納処分費及び徴収すべき国税債権に優先する本件差押時における本件根抵当権の被担保債権額の合計額を超える「見込がない」か否かであるところ、本件異議申立ての理由の記載内容は、本件根抵当権の極度額(一億一〇〇〇万円)に達する被担保債権が存在するが、本件差押不動産の強制換価による見込価額は右債権額を充たし得ないとの漠然とした主張が記載されているだけで、右見込価額の具体的な金額、その算定根拠も、本件異議申立書において明示されておらず、これを裏付ける資料等も添付されていないこと等に鑑みると、これに対する応答である本件異議決定において、本件のごとく、その附記理由が、被告のした調査内容の詳細を記載しない内容のものであつても、国税通則法八四条四項に違反した不備な理由附記であるとは認め難い。

してみると、本件異議決定には、右条項が要求する程度の理由が附記されているものと認めるのが相当であり、原告の主張は、その理由がない。

三 以上の次第であり、原告の本訴請求はその理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋利文 加藤幸雄 森脇淳一)

物件目録 <略>

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